2016年8月31日水曜日

成長要素のないゲーム

成長要素はもはや、RPGの特権ではなく、ソシャゲの収益体系にゴッソリ持っていかれた感があります。 猫も杓子も成長・成長・成長…。レベルアップ、スキル、合成、レア武器、レアカード…、やり方はいろいろあるにせよ、まあ成長ですよ全ては。

バブル崩壊…その後に…

バブル崩壊は1991~1993年と言われています。 長期金利は1990年には、なんと 8% もありました。 それが1997年には 2% を下回り、あとは皆さんご存知のデフレ社会ですよ。 バブルのイケイケ感は、なかなか数字を見たって分かりにくいんですが、福本伸行氏の漫画「銀と金」で以下のように語られており、これが私的には一番 しっくりきます。

土地がドンドン値上がりするんだから、借金をしてでも土地を買い漁った奴が得をするのさ。 何せ、借金の金利よりも土地の値上がりの方がすごいんだから。 絶対に損をしない安パイの博打だぜ。

まあ、引き際を見誤った人は損をしたわけですが、ですが、戦後の経済成長は1990年まで続いたわけですから…。 売買ゲームの時間は決して短くなかったと思います。 今は中国の経済がすごいことになっていますが、日本のように20年も30年も長いことハジけられるでしょうか? 来年ってわけじゃないが、そんなには 長くないだろう…。って、みんな思っているんじゃないでしょうか。 日本はフィーバータイムが長かったんですね。そりゃあ感覚も麻痺する。 だけども、いずれ経済成長とバイバイしなければならない不文律を、倍々ゲームに興じるギャンブラーたちがうっかり見落としたに過ぎません。

ファミコンは1983年発売です。 スーパーマリオブラザーズは1985年、ドラゴンクエストは1986年発売です。 ゲーム機のミリオンヒットというものは非常に多いのですが、 バブルが弾けたその前後となる、1990~1995年の作品を見てみましょう。

1990年:
スーパーマリオワールド(SFC)、Dr.マリオ(FC/GB)、ドラクエ4(FC)、FF3(FC)
1991年:
FF4(SFC)、ソニック・ザ・ヘッジホッグ(MD)、ゼルダの伝説 神々のトライフォース(SFC)
1992年:
スーパーマリオカート(SFC)、ストリートファイター2(SFC)、ドラクエ5(SFC)、スーパーマリオランド2(GB)、FF5(SFC)、星のカービィ(GB)
1993年:
スーパーマリオコレクション(SFC)、ストリートファイター2ターボ(SFC)、すーぱーぷよぷよ(SFC)、聖剣伝説2(SFC)、ドラゴンボールZ 超武闘伝(SFC)、 カービィのピンボール(GB)、ロマンシング サ・ガ2(SFC)
1994年:
スーパードンキーコング(SFC)、FF6(SFC)、スーパーマリオランド3 ワリオランド(GB)、スーパーストリートファイター2(SFC)、スーパー桃太郎電鉄3(SFC)
1995年:
ドラクエ6(SFC)、スーパードンキーコング2(SFC)、クロノ・トリガー(SFC)、スーパーマリオ ヨッシーアイランド(SFC)、星のカービィ2(GB)、 ロマンシング サ・ガ3(SFC)、バーチャファイター2(SS)、ダービースタリオン3(SFC)、アークザラッド(PS)、スーパードンキーコングGB(GB)

なんか同じメンツが数字だけ変えたり、スーパー付けたりだったり、タイトルを並べただけだと面白いものではありません。 もちろん中身は中身です。売れたことがクオリティの証明でもあります。 で、バブル弾ける前後。中核はスーパーファミコンですが、ゲームボーイもなかなか息が長いですね。 ジャンル的にはアクションゲームが多いような気がします。 マリオだとかスト2だとか、プレイヤーの腕次第なゲームがまだまだ多いかなという感じです。 しかし、1995年。いつもドラゴンクエストとファイナルファンタジーしか名前の挙がらなかった RPG ですが、この年は クロノ・トリガー、ロマンシング サ・ガ3、アークザラッド、と新顔も多くなっています。 あと、ダービースタリオンも競走馬を育てるゲームですから RPG ライクなところはありますね。

異変は1996年。やつの登場によります。
ポケットモンスター 赤・緑(GB)、マリオカート64(64)、スーパーマリオ64(64)、スーパードンキーコング3(SFC)、パラッパラッパー(PS)、 スーパーマリオRPG(SFC)、ドラゴンクエスト3 そして伝説へ… SFC版(SFC)、鉄拳2(PS)、バイオハザード(PS)、ダービースタリオン96(SFC)、 星のカービィ スーパーデラックス(SFC)、アークザラッド2(SFC)

要は1996年のポケモンが超売れたっていうわけですけども。 ただ、1995年DQ6、1996年ポケモン、1997年FF7、1998年ポケモン、1999年ポケモン(次点でFF8)、2000年DQ7…という具合に 一番売れるソフトは RPG だね! という風潮ができつつあります。

長ったらしいこと世の移り変わりを書きましたが、私の仮説はこうです。 「日本が成長しなくなった頃合いで、成長要素のあるゲームが流行しだした」

銀行に預金をしても、ろくに増えやしない時代。 消費税アップ以外のタイミングで値上げをすると、やたら叩かれる時代。 昔はあれでしょ、食堂のうどんが10円だったのが、気が付いたら100円になっていた…、とか、どんどん物価が上がっていく社会。 物価が上がる前提だから、給料も上がるし、銀行金利は高めだし、地価もグイグイ上がっていく…。 最近ではタバコがもの凄い勢いで値上がりしていますが、高度経済成長期っていうのは、タバコの値上がりみたいなノリで 米も肉も給料も上がったわけですよね。 すごいノリノリですよ。 イケイケ感が半端ないっすよ。 そういう社会情勢だと、娯楽の世界に成長要素は求められない気がします。 逆に経済成長が止まったとき、ゲームの世界で成長要素が流行りだしました。 人間はやはり、時間とともに右肩上がりになる成長曲線(グラフ)が好きなんでしょうね。 何かが時間とともに順調に伸びるということは、何事にも代えがたい安心感を与えてくれるのでしょう。 この心理的バイアスを「数字育成欲求」と仮称します。

ソシャゲ・マンネリ…その後に…

「空白の10年」は「空白の20年」と呼び変えられ、日本人は疲弊していた。 成長しない世の中にあっては、経済成長を無事に遂げられる元気な企業組織に身を置くことも難しい。 肉体や精神の成長も20代ともなれば、もはや望むべきでもないと誰もが知る(いや、精神は成長するのかもしれないけどね…)。 オレも伸びない、会社も伸びない、国も伸びない…。えっ、四面楚歌じゃんか! このような閉塞的な社会において、「数字育成欲求」は膨らむばかりである。 そんな社会的背景を付いて、見事な集金システムを構築するに至ったソシャゲ業界。 カネと時間を注ぎこめば、右肩上がりの成長曲線を得ることができる。 しかも、ネットワークに接続しているから下郎たちに私の成長ぶりを見せつけることができる。 なんということでしょう。ワクワクが止まりません。

いや…。

わかる。

わかるけど…。

もう、やめにしないか。そりゃあ、不安なのはわかる。8% の金利が付くのなら、通帳見てニヤニヤしていればいいもんね。 それが、ぜんぜん銀行に預けたって増えなくなったものだから、投資信託だのNISAだのっていう小技を使ってニヤニヤしようやんか!っていう世の中ですよ。 確かに今の時代、8% の金利が付いて、通帳見てニヤニヤ…っていう種類の幸せは無いかもしれない。 でも幸せは色々なタイプがあるじゃないですか。 もっと、それを考えよう。 万全を尽くしても不安になる奴はなりますよ。 逆に不安要素だらけでも、何とかやっていける奴もいます。 なぜなら、不安も安心も、要は心の在り様でしかないのだから。

ガラケーで鎖国していたこの国も、アップルやグーグルといった列強によって開国を余儀なくされました。 世はまさにスマホゲーの時代。 売り切り販売の従来型と違って、課金で継続的にお金を搾り取るのが現代のやり方。 課金なしの無料広告型のゲームにしたって、長く遊んでもらわないと収益になりません。 とにかく、終わらない、ネバーエンディングストーリー、別名「無間地獄」の始まりです。 まあ高度経済成長期の「物価」と「給料」の関係みたいなものです。 敵はだんだん強くなっていくけど、キャラクターもだんだん強くなっていくから大丈夫。 ジャンプの漫画でよくある、○○を倒す、もっと強いやつがでてくる、前回の敵を味方に付けて立ち向かう。 と、いうループを延々、延々やり続けるわけです。 バブルが崩壊するみたいに、終わりの日がないわけじゃないのですが、その時が来るまで運営は運営し続けるのです。

「成長はありません、終わりはあります」というゲーム企画を提出したら、上司に 「どうやって費用回収するの? バカかね」と、言われることでしょう。 つまり、ここに企業の限界があります。 費用を回収する仕組みをゲームの根本に仕込まざるを得ないわけで、どうしたって似たようなゲームシステムになりがちです。 個人開発のゲームにしたって、最初っからレベル上げみたいなことを、延々やらせ続けるゲームデザインのものもあります。 いや、私も通った道ですが、 少ないボリュームでプレイ時間を長くさせようと考えたら、レベル上げをだらだらさせるのが一番なんです。

だから、今回の新作「ダンジョジョの一本道」には成長要素が無いんだ。 キャラが18人いて、(競艇の3連単と同じく)120通りの組み合わせでパーティーを作ることができる。 この試行錯誤こそが、繰り返し要素となる。 この手のゲームの宿命として、「○○ステージはXYZの組み合わせがベストよ」という情報が出回ったら難易度は低下してしまう。 ネットを見ることで答えを探す過程をカットすることができる。 だけど、それでいいと思うんです。 誰かが考えた答えで攻めるのならソレもよし、あくまで自分で考え抜きたいのらソレもよし。 「えっ、○○は使いたくないな。あいつ嫌いなんだよな」みたいなところもありますからね。 各自、ご自分がご納得するように、自由にやっていただくのが一番です。 ユーザーをがんじがらめにするのではなく、もっと寛容でなくてはならない。 そんな気がするんですね。

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